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若杉先生のベートーベン

師匠である若杉先生のCDはたくさん発売されています。

先日、知り合いの方からベートーベン交響曲第1番と第3番(kolner rundfunk-sinfonieorchester)
のものをお借りしました。

第1番は導入部をもつ古典的な作品です。
ただし一楽章の冒頭はハ長調の曲にもかかわらずヘ長調の属和音から始まります。
聞き始めるとなかなかハ長調に至らず調性がはっきりしません。
主題提示部(第一テーマ)でやっとハ長調に落ち着く感じなんです。
古典派からロマン派への移行が現れていて和声的な面白さが際立ちます。

第三番は「英雄」という名前で有名な曲ですが、英雄はナポレオンの事です。
ただし、曲が完成した時点で作曲家はナポレオンが皇帝になったことに激怒して
スコアを暖炉に投げ込んだという逸話もあります(破り捨てたという説もあり)
一楽章の冒頭は2小節、変ホ長調の和音がなり、すぐに第一主題へと突入します。
交響曲1番、2番には導入部がありますが、三番でほぼ導入部がないスタイルを
生み出しました。
これは脱古典派と言えるほど画期的な試みです。

さて、若杉先生の演奏は1977年の録音です。
オーケストラの鳴らし方が絶妙で第1番では小気味いいテンポで進んでいきます。
印象的な部分は四楽章の最後の和音。
ほんの少しだけためたアコード(和音)がオーケストラを綺麗に鳴らしていて、
古典派的演奏を踏まえながら曲の終わりで脱古典派を表現しています。

第三番ではゆっくりめのテンポを設定しつつも英雄的なテーマを朗々と歌い上げます。
僕の世代の指揮者にとってトラディショナルなテンポはカラヤンの影響が強いのですが、
あえて一世代前のテンポ感を意識しているように感じます。
四楽章は圧巻でテーマのヴァリエーションの一つ一つが生き生きしていて、
どんどん引き込まれていきます。

この録音をした時、若杉先生は43才。
僕の年齢よりも7才若いんです。

先生と僕を比較するのは失礼ですが、はたして自分はどのくらい先生から教えてもらった事を
生かせているか考えてしまいました。

この演奏は何度聞いても飽きることがなく、聞けば聞くほど発見があります。

聞いていると先生の指揮姿が目に浮かんできました。

若杉先生が亡くなって6年、奥様の羊奈子先生も昨年、天国へ旅たちました。

先生の業績に及ぶことはないにしても、これから多くの演奏を残したいと思います。
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プロフィール

Yoshihiro Chiba

Author:Yoshihiro Chiba
指揮者、東京芸術大学講師。
オペラを中心にオーケストラや宗教曲もレパートリーにしている。

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